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Stanford MBA 心の旅路

Stanford大学でのMBA(Stanford GSB)留学に奮闘する、外資系経営コンサルティング・ファーム勤務の若者の心の日記blog。 コンサルティングの仕事、MBA受験からスタンフォードGSB合格、スタンフォードMBA生活、帰国にいたるまで。

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HBS(Harvard Business School)のドクターにいるアメリカ人の友達が、1つの論文を送ってきた。


”Maximizing shareholder value: a new ideology for corporate governance”という、株主価値最大化経営に関する考察の論文だった。彼は元々私と同じコンサルティング会社におり、同じプロジェクトをやったこともあれば、部屋が一緒だったこともある。よくプロジェクトの合間にアメリカや日本の経済や経営について議論をしていたから、興味があると思って送ってくれたのだろう。


論文はアメリカにおける、ここ20年間の株主価値経営台頭の歴史を紐解いていた。1970年代のアメリカでは、企業の利潤を将来投資に回す循環が機能しており、成長を目指す経営がなされていたという。しかしこの20年間に、株主価値経営が台頭したことによって、株主のために従業員の首を切り、利益を配当にまわして株主に還元する流れが起こってきたと言う。Lazonickは、そうした株主価値の最大化は短期思考であり、企業および米国経済の継続的成長と両立させることは困難ではないかと疑問を投げかけている。


株主価値経営の台頭


株主価値経営が台頭する歴史背景の記述が興味深い。


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Willian Lazonick and Mary O’Sullivan. (2000) ‘Maximizing shareholder value: a new ideology for corporate governance’, Economy and Society Volume 29 Number 1 February 2000: 13-35


1920年代から70年代まで、アメリカは製造における王者だった。長い期間の繁栄は企業を巨大化させ、過度に中央集権のまま肥大化した企業は、動きの取れない硬直化組織を生み出す。ところが70年代になって日本が製造分野で台頭すると、国際競争に苦しむアメリカ企業は、内向きになった視野を一気に正す劇薬の理論として、”Agency theory” なるものを受容する。


Agency theoryでは、市場原理の方が、全体最適の観点からは常に企業経営陣の判断よりも優れているのだから、企業の株を保有する株主こそが企業の真の所有者であるべきであり、経営陣は代理人(agent)に過ぎないとする。市場(=株主)に最大のリターンを返す企業こそが最も優れた企業なのである。


Agency theoryに加え、1970年代のウォールストリートの金融諸改革や自由化によって、保険・年金などで大量の資金が機関投資家によって運用されるようになり、企業に対して大きな影響力を持つ機関投資家が登場すると同時に、大きな資金が株式市場に投入されるようになる。またインフレの進行によって、債券などの低利のものより、株式等リターンの高いものに投資がシフトするとともに、投資家はBuy & Hold型の長期投資スタイルから、キャピタルゲインを重視するようになっていく。これらの環境変化と、1980年代の敵対的買収といった強力な企業コントロール手法の台頭があいまって、株主価値(=時価総額)を最大化することが唯一の企業目的であるとする風潮が、アメリカを支配するようになっていったという。


“Retain and reinvest” から”downsize and distribute”へ


その結果、この20年間「株主価値を最大化する」名目でアメリカにおいて行われてきたのは、組織をダウンサイズし、利益を配当にまわして資産を小さくとどめ、余剰資金で株式を買い戻し、エクイティーあたりのリターン(ROE)を高めることだった。


製造業からサービス業への社会構造の変化とあいまって、大規模な製造業企業を中心に1980年代と1990年代はlayoffが吹きすさぶ時代となった。また株主という企業の所有者の明確化は、「株主利益を株主と一体になって実現する経営者」と、「会社組織」との分断を引き起こし、内部昇進する経営者ではなく、外部から招聘され、株主価値を短期間にあげて膨大な給料を得て去っていく”プロ”の経営者を生み出すことになる。そしてさらに、企業の最大の関心ごととなった株価や時価総額は、ストックオプションの従業員への配布によって、経営者だけでなく、末端の従業員にまで結び付けられることとなる。株価が上がれば従業員もうれしい、そういう構造が作られてきた。アメリカ型の株主価値至上主義の到来だ。


株主は、中長期的な戦略や投資自体よりも、表面的な金銭リターンを重視する。短期での高いリターンを期待すれば、短期に売りぬくことを考える故に、なおさら本質的なファンダメンタルズ以外での投機的なインセンティブが働くようになる。結果として企業は成長のための投資を削り、利益を出す効率化/組織の無理なダウンサイジングを行い、あがった利益を配当にまわし、自社株を買い戻したりする傾向が強まる。そうやって株価がつり上がれば株主も経営者も、ストックオプションをもらっている従業員もうれしい。「株価を上げられる」と評判のある”経営のプロ”が外部から招聘され、自分の任期の間にできる短期的で徹底した効率化を行い、株価を吊り上げてさっていく。人々は株に投資し、株主としても利益を享受する。しかし、本質的な長期投資を避け表面的な利益を追求し続ける力学が社会全体に掛かってきていると考えた場合、そのスタイルはいつまで続くのだろうか、持続可能なモデルなのだろうかと、Lazonickは警笛を鳴らしている。


株主資本主義の功罪


株主価値経営がマーケットの原理を持ち込み、ぬるま湯に使った経営者に競争原理を持ち込んだ意義は大きいとは思う。ただし、私もLazonickが指摘するように、アメリカ型の株主資本主義には修正を要する部分が大きいと思う。


株主資本主義という名の、金銭価値至上主義且つ株主価値至上主義。株価/時価総額という数字だけが一人歩きし、社会の中での企業という存在、株主以外のステークホルダーの価値(従業員、地域社会の住民、顧客など)、貨幣価値以外の価値(文化、生命、環境など)が軽視されすぎ、人間の「生活をする」という営みから、企業が遊離しすぎている感じがする。企業買収の活発化、配当の増加、PEの人気化などを見ても日本も知らぬうちにアメリカの株主価値経営の影響を強く受けてきている現在の状況において、資本主義がどうあるべきか、企業がどうあるべきか。こういった論文に対して各国のビジネス・リーダーたちはどう考えるのだろう。2年間の留学で、一度自分なりにしっかり考えてみたい大きなテーマの1つである。

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